ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.60 "杉村徹さんの作品と人となり" "土屋美津子さんと等一さんの復活" "矢田典子さんの作り出すもの"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.60 "杉村徹さんの作品と人となり" "土屋美津子さんと等一さんの復活" "矢田典子さんの作り出すもの"

<2013年11月号>

杉村徹さんの作品と人となり

愛知県・常滑から茨城県・龍ヶ崎に移転されて3年。
gallery tenでは、企画展最多5回めの杉村徹さん。
9年以上前、私が自宅でギャラリーを始めようと思いたち、そんな海の物とも山の物ともつかないような素人に、 快く展覧会をしようと言ってくださった時の感動は今でも忘れられません。

長いお付き合いの中、杉村さんの人となりはほとんど把握できていると思っています。
杉村さんの木の作品は、杉村徹さんそのものだと思います。
作品とご本人を形容する言葉はいくらでも出てきます。
自然体で、控えめで、芯が通っていて、誠実で、気取りがなくて、洗練されていて、頑固で、軽快で、率直で、温かくて、 凛としていて、優しくて、遊び心があって、包容力があって、きっちりしていて、ピリっとしながら肩の力がぬけていて、・・・・・。

器、オブジェ、テーブル、スツール、棚、・・・・・。
その造形はシンプルでスマート。意図を感じさせないギリギリのデザインが美しい。
木の特性を最大限に引き出し、かつ、機能を備える道具と成す。
ノミ跡が優しい肌になる。この削られたひとつひとつが杉村さんの丁寧な仕事の積み重ねとなる。

昨年の1月にカフェを立ち上げる際に、私の第一希望であった杉村さんのテーブルやスツールを配しました。
毎日毎日、いろんな人がスツールに腰かけ、テーブルでお茶や食事を楽しむ。
多くの方から「気持ちがいいね。」「ステキね。」「落ち着くね。」という声をききます。
それは無垢の木という理由だけではなく、意匠や心地のよさを体感するからこその感想だと確信します。
そんな道具にいつも触れていられる幸せは、体や心の真ん中からじんわりと感じられるのです。




土屋美津子さんと等一さんの復活

埼玉県・東松山にある“ギャラリー黒豆”は、19年の歴史を持ちます。
オーナーの土屋美津子さんは、昔から日本の骨董に心酔し、バリ→アフリカ→中国・秦→フランスと、アンティーク道をまっしぐら。
ギャラリーでは、フランスのアンティークを中心に展開されていますが、もう一つの作家としての活動も。
使い古された鉄の道具のパーツを組み合わせ、なんとも魅力的な世界でひとつの照明器具に生まれ変わらせるのです。
美津子さんがパーツから連想し鋭い審美眼の下デザインを起こし、職人のご主人・等一さんが忠実にそのイメージをカタチにする。
できたライトは、そこに置かれた場の“空間”までもが創りだされる。不思議なオーラを放ちます。

黒豆には、どこからともなく悩みを抱えた人たちがフラっと来られるらしい。
たしかに美津子さんと話をしていると、大きく深い懐に抱かれるような感覚におちいる。
先日伺った時も、長い時間いろいろと話をしながら、二人とも泣いたり笑ったり自然と心を打ち解けられるのです。
それは、彼女自身が多くの辛い体験を何度も乗り越えてくる中で、人の痛みを理解し受け入れる慈愛にあふれている所以でしょう。
つい最近では、昨年5月末、漏電によりアトリエとご自宅が全焼するという惨事がありました。
かわいがっておられたネコを助け出し、オロオロと燃えていくのを見ているばかりでした。
どれほどのご心労だったか計り知れませんが、多くの土屋さんのご友人たちによって救われたと感謝の日々を過ごされたと。
もちろん、それは徳を積んでこられた土屋さんご夫妻の人望によるものでしょう。
そこから立ち上がって、新しいご自宅とアトリエとギャラリーを建て直し、力強く復活されたのです。
1年延期となった今展ですが、新生“KUROMAME LIGHT”、ぜひご高覧ください。




矢田典子さんの作り出すもの

大阪出身、千葉在住の矢田典子さん。
同じく、大阪出身、千葉在住で、名前も一文字違いの私は、それだけで親近感がわきます。
そして、COMME des GARCONSのデザイナー・川久保玲さんをこよなくリスペクトするという点でも同じ。

矢田さんは子供のころから絵を描くのが好きで、高校生の時、油絵の道具を買ってもらって、絵にのめりこまれたのだとか。
それからずっと生活の一部のように絵を描き、お子さんに少し手が離れた時に本格的に絵を描き始めました。
まもなく、国内外の現代アートを発信する“すどう美術館”にて作品を初めて発表されました。
その美術館の主催で、作家さん方が海外へアートツアーにしばしば出かけたのだそう。
デンマーク、ドイツ、ハンガリー、スペイン、カンボジア、タイ、マレーシア、・・・へ。
異文化の土地で多くを感受したものの蓄積が、今の矢田さんの創作のエッセンスとなる。
また、ギャルソンのショップから送られてくる情報紙からも、大きく触発されるとおっしゃいます。

矢田さんは、最初は具象の油絵をずっと描いていましたが、そのうち、抽象表現がおもしろくなり、 油絵、コラージュ、版画、陶芸、写真、・・・と、創作の幅が広がってきました。
発表するということだけではなく、山へ行って草を採ってお茶にしたり、部屋の模様替えをしたり、料理したり、 無我夢中に何かを作り出すことに喜びを覚え、それらが暮らしの中の自分にとって全てが楽しいと。
彼女が織りなす何もかもが、矢田さんご自身なのでしょう。 


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