ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.26 "杉村徹さんの木の仕事""寺井陽子さんの有機な作品"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.26 "杉村徹さんの木の仕事""寺井陽子さんの有機な作品"

杉村徹さんの木の仕事 寺井陽子さんの有機な作品(ギャラリーテン〜コラム vol.26) <2009年10月号>

杉村徹さんの木の仕事

やきものの町・常滑で、木の作品を生み出しておられる杉村徹さん。
gallery tenでは、杉村さんの展覧会は今回で3回め。

私がギャラリーを始めてすぐの頃、都内での杉村さんの個展に伺い、初めて作者ご本人にお会いしました。
もちろん、その以前から杉村さんの作品が好きでしたが、そんな初対面の私が唐突に展覧会のお願いをしたとき、意外にも快く受けてくださったのです。
主婦の趣味が高じて始めたばかりの、しかもちゃんとした店舗もなく自宅でやるという、普通に考えてもあまりにもショボいギャラリーで。
どうしてあの時、杉村さんが快諾してくださったのかいまだに謎ですが、このギャラリーの恩人であることにかわりはありません。
以降、紳士で温かいお人柄の杉村さんには、公私ともにお世話になっていて、何かある毎にメールや電話で相談したり報告したりしています。

杉村さんの作品はクールでスマート。
超シンプルでありながら、デザインされていないデザインの感覚が研ぎ澄まされている。
しかも、直線のラインにエッジが効いていて、一見軽く見えてしっかり存在している。彫刻的な一面もある。いや〜、カッコいい。

こんな杉村さんの作品の魅力にとりつかれているのは、私も含め、続々と増殖中。
ウチのお客さまでも、毎回少しずつ杉村さんの作品を買い足してくださる方がたくさんいらっしゃいます。
数年前、友人が無垢の木のダイニングテーブルを新調したいと、長い期間をかけていろんなお店を廻り、結局、青山のお店で数十万円のテーブルを作りました。
ところがどうしてもシックリいかず不満が募ったのち、リサーチ済みの杉村さんにオーダーし、新たにテーブルを作ってもらい納品。
それはもう、眼からウロコがおちるような満足感で、毎日テーブル面にスリスリしていると幸せメールを何度かよこしてくれました。
しかし、そんなに日が経たないうちに彼女にある意識が芽生え、日々、小さなストレスを感じるようになってきました。
リビング・ダイニングの空間に、杉村さんのテーブルが静かに凛として存在するようになって、
同じ空間にあるいろんなインテリアの家具や絵そのものやレイアウトがかたっぱしから気に入らなくなってしまったのです。
このことは、テーブルではないにしろ、私にも同じような経験があります。
思い入れのあるモノ、しかも後で気づく作品力(!)のあるモノが、一つ自分の暮らしの中に入り込んだとき、そのモノが放つ空間への影響は大きい。
そのモノだけがよいのではなく、それを取り巻く周りの空気までが気になりだす。
こうした積み重ねが、日常の暮らしを心豊かに成り立たせていくのでしょう。

今回、壁にとりつける棚をはじめ、テーブル、ちゃぶ台、スツール、蓋モノ、トレイ、・・・など、永く暮らしの道具として活躍する作品が勢ぞろいします。特注も承ります。
そして、この会期の1週間、私はひそかにスリスリを楽しませていただく予定♪ みなさんも、ぜひ!


  
  




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寺井陽子さんの有機な作品

兵庫県川西市で作陶されている寺井陽子さん。
私の大阪の実家からほど近くにある寺井さんのお住まいには二度目の訪問でしたが、なんとも洗練された居心地のよい空間。
お父さまがこの家を設計された建築家で、窓の取りかたやフロアの段差、造作家具の配置や仕様、照明、色、質感、・・・・・、どれもよい。
今までにいろんな方のお宅にお邪魔しましたが、私の好きな家BEST・3に入ります。
また、お母さまは美大の洋画科ご出身で、陽子さんは、幼い頃から、ご両親の高い美意識の中で育ってこられました。
中学生の頃から、なんとなく、モノを作る人になるかもという感覚があり、自然な流れで芸大の工芸科に進まれました。

寺井さんの創作プロセスは、おもしろい。
まず、紙に自分の中から出てくるカタチをペンで描く。
コレだと決まった形ができたら、その図の上に、碁盤目を載せる。そのマス目を頼りに、描いた図に忠実に土で立体につくりあげていく。
土を触っているうちに自然に手が動いたとおり成形するという作家さんの話を何度か聞いたことがありますが、寺井さんの場合はあくまで図面どおり。
なんでも、寺井さんが子どものころから、新聞の折込チラシに入っている家の間取り図を見ては、立体になった部屋を想像するのがお好きだったとか。何か通じる。
そして、その自分の中から出てくるカタチというのは、自然がお手本だそう。
草木を愛する寺井さんの最もお気に入りのものはキノコ。
しかも、キノコが生息する湿った空気感がたまらないらしい。ヒマをみつけては、キノコの姿と背景を羨望しに出かけられるほど。
隔年でサンタフェのギャラリーで個展をされています。あのジリジリと照りつける太陽の下、地面がそのまま盛り上がってできたような土壁の建物と寺井作品。
そこここにニョキっと生えたと見まがう寺井さんのオブジェや花器は、なぜか「キノコがうらやましい」とおっしゃるだけに、キノコへのオマージュ作品なのかもしれません。

斬新かつ有機的な造形に、河原などにころがっていそうな石のようなマットな質感。少しピンクや黄色がかかっているような淡い白。
信楽の土で成形したものに、チタンが入った釉薬を施されていることで得られる肌感。
この物体にさわると手にきもちがよい。ひんやりしていてあたたかく、そのうち、やわらかく溶け出すのではないかと手と一体化してくる感覚がある。
このページの背景の画像のマグカップは、私の愛用品。私の手のひらを形状記憶しているかのようにピタっとくるのが、とてもとても愛おしいのです。
全盲の知人が、美術館や博物館で視覚障害者の人たちがいかに作品を楽しめるかということを協議しているという。
今回、寺井さんの作品を心の眼でみてもらおう。何か美を愛でる体感ができるにちがいない。よし、そうしよう。

 

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