ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.70 "根性の人・河上智美さん" "KORA KAPDAが“カディ”にこだわるわけ" "佐藤新吉さんの人となり"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.70 "根性の人・河上智美さん" "KORA KAPDAが“カディ”にこだわるわけ" "佐藤新吉さんの人となり"

<2014年9月号>

根性の人・河上智美さん

浅草生まれ浅草育ちの生粋の江戸っ子の河上智美さん。
彼女のおじい様はべっ甲職人、時代の流れとともにお父様はアクリル職人という家。
浅草には、いろいろな手工芸の職人や問屋があり、そんな環境の中、河上さんは何かものを作る人になることをめざしました。
工芸高校のインテリア工芸科に進みました。
高い向上心を持つ河上さん、高校時代から美術館に通いつめ、『ELLE DECO』などの海外誌を愛読。
卒業後はインテリア会社のデザインを担当するも、モノができあがっていく工程でどんどんデザイン変更されていくことが多く、 一から十まで自分でつくりたいという想いが芽生え、修学旅行で行った小樽で見たガラス工芸のことを思い出しました。
その後、会社を辞めて、能登のガラス工場に入り、基礎的な技術を身に着けました。
もっともっと技術を高めたいと、都内にある大手のガラス工場に入りました。
ここでは、職人のグループがいくつもあり、それぞれが決まったガラス品を作り続け、またグループ内での厳しい縦社会も体験。
新入りで女性である河上さんには、いつまでたっても下働きの仕事しかやらせてもらえず、それでも休憩時間も惜しんで一途に練習をした。
その上、夜間にガラスの学校に通って学ぶという姿勢には、河上さんの芯の強さと根性が感じられます。
3年後、独立して現在に至りますが、工房にこもって制作しているときが楽しくてたまらないとのこと。
こうして作ってきた作品は500種類もあるそうです。
今後の展望は、作り続けていくこと。とにかく絶えず作り続けていく。それが河上さんの喜びであり生きがいなのです。



KORA KAPDAが“カディ”にこだわるわけ

ブランド名の“KORA KAPDA”は、ヒンドゥー語で生機生地、未晒し糸のままの織物のこと。
インドの広大な大地の恵みと伝統が生み出すコットン素材“カディ”の心地よさをストールや服に生かすものづくりをしています。
1930年頃、時代とともに手間のかかるカディよりも当時インドを植民地支配していたイギリス製の機械綿織物布が普及し始めたとき、 インド独立の父であるマハトマ・ガンジー氏によって、インド人が自給して経済的に自立できるようにと“スワデシー(自国製品愛用)”運動を呼びかけました。
“カディ”は、手で糸を紡ぎ、手で巻き取り、手で織る・・・。生地1メートル分の糸を紡ぐだけで一日かかるとも言われるほど。
しかし、このとてつもない多くの人の手を経てできあがった生地は他にはない優れた特徴をもちます。
糸の撚りが甘いので、肌触りが柔らかく、吸湿性、速乾性が高く、夏は涼しく、冬は暖かく感じられるのです。
そして、手で紡いでいるので、糸の太さが均一でなく、それがかえって表面の独特の表情を生みだします。洗うと表情も風合いも増します。

また、例えば、太い糸で織られた布はカジュアルで、細い糸のそれはドレッシーになるというイメージの傾向がありますが、
KORA KAPDAの服づくりには、この細番手の糸で織られた布を使うことで、ナチュラルながらもプレスするときちっとしたスタイルを楽しめるところも魅力の一つです。
カタチはいたってシンプルですが、ドローストリングやボタンなどのディテールに工夫があり、いろいろな着方ができます。
ストールも大きさや形状のバリエーションがあり、薄地なのでグルグル巻いても心地よいボリュームを出しやすい。
今回、在廊の3日間では、巻き方によって一枚のストールが多様に楽しめるということを、写真やデモンストレーションで紹介していただきます。
1年中活躍するアイテムのストール、いつも同じ巻き方ではなく、スタイリングのヒントを得るよい機会ですね。

さて、このカディは、コットン素材とは言え、膨大な手数をかけて作られる希少なもので、シルクより高価になるものも少なくありません。
インドでは一般市民には手の届かない高級品で、ガンジーの遺志を受け継ぐ布として数多くの政治家たちが着用していますが、一番需要の高いのが日本とのこと。
日本人ほどこの手仕事を評価する民族は他にはいないと言うのです。
これは日本のブームや流行という一言で表すのではなく、価値を認めて“買う”ことで、その素晴らしい作品と技術をすたれさせずに守っていくということを意識したい。
このことは、インドのカディについてだけではなく、我が国の伝統工芸をはじめとする文化全般にも同様のことが言えるでしょう。



佐藤新吉さんの人となり

京都で代々傘の職人の家に生まれた佐藤新吉さん。
彼がお父様から引き継ぐとき、ただ問屋に卸すための傘ではなく、ひとつひとつ丁寧に作る傘の作家となりました。
できれば作る相手の雰囲気に寄り添って作りたい、思い入れをもって意味のある傘を作りたい、手で作る温かみを伝えたい、・・・。
佐藤さんの傘づくりの精神は、佐藤さんご自身の人となりから十分感じ取られる。
人懐っこい笑顔で世話好き、人とのコミュニケーションや関係を大切にし、ホンワカと温かい方。
初めて会ったとは思えないほど、気が付けばふっと心を開いて話しているという雰囲気をお持ちなのです。
家族や親戚、友人たち、コミュニティをとても大切にしておられます。
積極的にいろんな場所に出かけて人との交流を深め、子どものように楽しんでいることがわかります。
そんな佐藤さんを見ていると、私もその仲間に入りたいし、自分の仲間も彼に紹介したいと思います。
こうして、佐藤さんをとりまく人のネットワークが広がっていくのでしょう。

佐藤さんの傘には、生地選び、京都らしい組み紐で編んだ傘の留め具、無垢の木の取っ手、骨の関節にあてた布、小さな刺繍、 ・・・と、いたるところに優しい心遣いが見られます。
奇をてらったデザインも押しつけがましい機能も特に何の変哲もないシンプルな傘。
でも、じんわりと大切に扱おうとか、持っていてうれしいなと思わせる目に見えないものが内側からにじみ出ているのです。
やはり、佐藤さんの傘作品は、佐藤さんそのものなのでしょう。




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