ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.7 "オトコ・内田鋼一""paramita museum"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.7 "オトコ・内田鋼一""paramita museum"

オトコ・内田鋼一 paramita museum(ギャラリーテン〜コラム vol.7) <2006年10月号>

オトコ・内田鋼一


工場が林立するこの街は、小学校の社会科の教科書で見た懐かしい風景のようでもあり、
また、どこか手塚治虫さんの漫画に描かれた、直線ばかりの未来都市のようにも見えた。
数ヶ月前、内田鋼一さんの三重県四日市のアトリエに伺いました。

内田さんのアトリエがある敷地の道路際に、シンプルな“Koichi Uchida”という看板が。
鋼一さんと奥様の京子さんが出迎えてくださいました。
内田さんといると楽で心地よく、時間を忘れる。
まるで昔からの友人のような気分になれる。
いつお会いしても、ラフで肩の力が抜けていて、全く飾りっ気がない。
私も調子に乗って、緊張感ゼロでついつい自分をさらけ出してしまいます。

「こういうのはどうでしょう?」「あんなこともしたいです。」「具体的にはわからないけど、こんな感じが。」・・・・・など、
私は思いつくままに展覧会の企画の無理難題を言い放ちます。
でも、どの投げかけにも、シャイな笑みを浮かべた内田さんは、「考えてみましょう。」とか「いいですよ。」とか、全てを受け入れてくださいます。
「何でもできるよ。」という自信と、「何でも協力するよ。」という温かさを、ひしひしと感じました。
結局、世間話に花がさき、展覧会についてはほとんど決めず仕舞で帰ってきてしまいましたが。

内田さんの作品は、限りない創造性にあふれています。
朽ちたような肌合いのもの、モダンで洗練されたもの、李朝を髣髴とさせるような磁器、鉄、ガラス、・・・。
オブジェから食卓にのぼる器まで。
また、建築や空間をクリエイトすることも精力的になさっています。
アトリエにあった4基の窯のうちの一つが巨大なのに驚きました。そして、クレーンまで天井から吊られている。
「1日が24時間じゃ足りないでしょ?」と尋ねると、「いやいや大丈夫。」と飄々とおっしゃる。

学校卒業後、アフリカ、ヨーロッパ、インド、東南アジア、韓国などの窯業地の村に暮らしながら放浪の旅を続け、
作陶を重ね、確実に内田さんの体にしみついていった感性や技術が、きっと今噴出しているのでしょう。
そして、今度は、日本のみならず、欧米をはじめ、世界中で注目されることとなり、多大な影響を与える側に。

私はギャラリー主宰者でありながら、内田さんにはミーハーなファンの感情なしではいられません。
アトリエに伺ってまず、持参した内田さんの作品集にサインをもらい、満足!
作品の絶大な魅力にも、内田鋼一というヒトにも惚れているのです。
大きな包容力、大きな想像力、大きな努力、大きな度胸、大きな遊び心、大きな思いやりの心、・・・、そしてちょっぴりヤンチャな感じ。
まさに“いいオトコ”なんです。
今回、gallery ten で、内田さんの個展を展開することができ、みなさんに観ていただくのは、とてもうれしいことです。
しかも、このギャラリーは私の住空間でもあり、会期の1週間、内田作品に囲まれて生活できる極上の喜びは計り知れません。
いつか何かのテレビ番組で、脳科学者の茂木健一郎さんがこんなことをおっしゃっていました。
「人が生きていくうえで必要不可欠な水や食べ物を得たときに喜びを感じる脳の部位は、
美しいモノを見たり、美しい音楽を聴いたりしたときのそれと、全く同じ場所。
だから、美しいモノや音楽を感じるということは、人間にとって必要不可欠なことなんです。」と。
そういう行為が、心の余裕や嗜好によってのみなされるのではなく、“必要”なんだって、心を打たれました。
必然性を意識していないものごとが、知らぬ間に自分の血となり肉となる。
そして幸せな気持ちになる。
そういう意味でも、内田さんの創りだされるモノやヒトトナリが、確かに私の細胞の一部になり得ることを実感するのです。




                     


              

paramita museum

内田さんのアトリエから車で30分。鈴鹿山脈を背景とする“パラミタミュージアム”に立ち寄りました。
以前からずっと行ってみたかった美術館。

内田さんの緑青色の陶片が埋め込まれている壁面のエントランスを抜けて中へ。
ピーッと張りつめた空気を感じながら、足を運ぶと、内田さんの壺が整然と置かれた“壺の道”へと導かれ広大な庭へ。
ほっとする。
プリミティブで繊細な壺たちは、少し苔むしているものもあり、この庭園の木々や山野草たちをず〜っと見守っている。
なんて優しいのでしょう。

館内に戻り、常設の池田満寿夫さんの陶彫“般若心経シリーズ”の壮大で厳かなたたずまいに圧倒されます。
版画その他で名を馳せた彼の最晩年、陶芸へとかりたてられた数百点に及ぶ作品群です。
この美術館の名前の由来は、 梵語の「はらみった・波羅蜜多=迷いの世界である現実世界の此岸から、悟りの境地である涅槃の彼岸に至ること」。
この場で1時間くらい深呼吸していれば、心が洗われていくような気さえしました。

順路の傾斜廊下を上っていくと、頂上に、ここにもまた内田さんの大きな壺が鎮座。
その壺が、「いらっしゃい♪」と優しいひとことをかけてくれる気もしたが、すさまじい存在感がそこにはあった。

古萬古のコレクションも見応えがあり、魅力的な企画展示も。
また訪れたい美術館です。





コラム vol.7 "オトコ・内田鋼一" "paramita museum"