ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.49 "美の追求・鎌田克慈さん" "山崎美和さんの赤" "荒井恵子さんの爆進"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.49 "美の追求・鎌田克慈さん" "山崎美和さんの赤" "荒井恵子さんの爆進"

<2012年12月号>

美の追求・鎌田克慈さん


風呂の中。回転して乾燥させる。



方眼紙に描かれたデザイン画。

石川県輪島より少し南に位置する志賀町で漆の器を制作している鎌田克慈さん。
鎌田さんは“乾漆(かんしつ)”という技法で作られています。
乾漆とは、挽いた木地に漆を塗り重ねていくのではなく、麻布を基盤とするのが大きな違いです。
1.型に離型剤を塗る。
2.その上に麻布をのべ(漆と糊を合わせたもの)で貼り重ねる。
3.木で作った高台を付ける。
4.布目を殺さないように薄く下地(漆と地の粉を混ぜたもの)をする。
5.赤や黒の漆を塗る。
以上のような流れで、実際は約30工程の作業を経て完成します。
素地が布なので非常に軽く薄くなること、木では出せない布独特の動きが出ること、割れることがほとんどないことが特長です。

鎌田さんのアトリエは何部屋かに分かれています。
型に麻布を貼ったり、下地をつける部屋。 上塗り(仕上げの塗り)の部屋。在庫、型を置く部屋。
塗りの部屋では、建具の枠を目地止めし、風や埃が入らないようにし、塗作業の前には隅から隅まで拭き掃除をする。
それほど塗りの作業は神経をとがらせてピリっとした空間と精神状態でなされます。
その部屋の中にさらに引戸で仕切られた部屋(湿度を保ちながら漆を乾燥させるいわゆる“風呂”)があり、
塗面が均一に乾くように何本もの長い棒の先に作品をとりつけ徐々に回転させる。とにかく、塗りの作品は手がかかる。

鎌田さんはフォルムの美しさを追求しています。美しくカタチづくるために乾漆技法を取り入れているのです。
綿密にデザインを考え、忠実に実現する。今までにないモダンな漆器ができあがります。
漆器は扱いが大変と敬遠されがちですが、普段使いとして毎日使って洗って拭いてと他の器と何も変わりません。
何度も使い込んでいくうちに艶々になり、ますます美しくなります。何より手触り口触りが気持ちよい。傷ついても塗りなおすことができる。
ぜひ漆を暮らしに取り入れて楽しんでいただきたいと思います。


山崎美和さんの赤

沖縄芸術大学で陶芸を学び、その後、金沢の卯辰山工芸工房に入り、さらに陶芸を深めた山崎美和さん。
山崎作品の赤には強く惹かれます。
辰砂(しんしゃ)という釉薬によるものです。
またその赤を最大限に活かす艶やかな磁土による繊細で美しい造形。
窯の温度調整や時間や窯詰めの配置など細かい条件によって、この赤い色の出かたが異なります。
焼成が大変難しくリスクが高いのだそうです。
美和さんはサバサバした気骨のある女性ですが、作陶に関してはこまやかな神経で取り組みます。

スタイリッシュな造形と、この洗練された赤が混然一体となり、食卓に華やかさを添えます。
赤絵の器はたくさんありますが、真っ赤な器に料理を盛ったらどんなふうになるのでしょう。
今回、山崎さんと鎌田さんの器をはじめ、いろいろなタイプの器に、料理の盛り付けを楽しむという
料理研究家・林幸子さんによる食事会を予定しています。
どうぞお楽しみに。


荒井恵子さんの爆進

元気のない姿を一度も見たことがない我が親友・荒井恵子さん。
これは私の前だけではなく、いつなんどきもどこにいてもテンションが高い。そして忙しい。
個展は国内外で頻繁にあり、アート塾を主宰し、多くの作家の個展や美術館の展覧会に出かけ、注文の仕事をこなし、子供の行事に参加し、人と食事したり飲んだり、
地方に出かけて和紙づくりにも挑戦し、夜中から朝方にかけてアトリエにこもり制作し、読書し、だいたいの家事もやり、たまには私と遊ぶ、・・・・・。
いったいいつ寝ているのだろうと心配になるほどです。それでいてあの元気・・・。強靭な体力と精神力の持ち主です。
バイタリティがあるだけではなく、かなりのポジティブ人間、あるいはかなりの楽天家、あるいはかなりのテキトー人間。そこが私たちの気の合う最大のポイント。

彼女の水墨画は現代アートである。
絵画には余白や間が大切な要素だと思いますが、荒井さんの絵の余白を見ていると吸い込まれていくような感覚におちいります。
描いている過程を見せてもらったことがありますが、下書きもなくどんどん書き込んでいきます。みるみる間にカタチになっていくのです。

一昨年はニューヨーク、昨年はアルメニア、今年はパリ、来年はノルマンディの古い教会で・・・と、
海外での個展には必ず現地に滞在し、多くのことを吸収しまた帰ってきます。
現在、ある寺の12面の襖絵を描くという大きな仕事にも挑んでいます。

横山大観氏の代表作“生々流転”の制作のために開発を依頼されたという越前の和紙職人・岩野平三郎氏。
結局、彼はその和紙ではなく絹地を選択されましたが、その後、巨大壁画“明暗”で岩野氏の和紙を使われたとのこと。
実は荒井さんも、この岩野製紙所(現在3代目平三郎氏代表)のこだわりの名和紙で水墨画を描いています。
気鋭の画家・荒井恵子の作品のすばらしさをより多くの方にご覧いただきたいと思います。

コラム vol.49 "美の追求・鎌田克慈さん" "山崎美和さんの赤" "荒井恵子さんの爆進"