ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.30 "オトコマエ・ウスタニミホさん""可憐な母・萩原朋子さん"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.30 "オトコマエ・ウスタニミホさん""可憐な母・萩原朋子さん"

<2010年6月号>
オトコマエ・ウスタニミホさん 可憐な母・萩原朋子さん(ギャラリーテン〜コラム vol.30)

オトコマエ・ウスタニミホさん


    

じゃじゃ馬娘(?)のFIAT500
  

ウチからアクアラインを通って車で突っ走ること、たった1時間半で葉山に到着。
ウスタニミホさんのアトリエ兼お宅は、葉山の小高い丘の上の住宅地にありました。

駐車する私の運転に、「男っぽいわねぇ。」とボソっとひとこと。初対面がそのときでした。
最初からオープンできさくなウスタニさんとは、いきなりプライベートな話もできるような雰囲気。
サバサバしていておおらかでちょっと大雑把で豪快でテキトーなおもしろい方でした。
いろんな面で私自身とオーバーラップしてしまうくらい共通点が多く、もう一人の自分と会っているような感じさえ覚えました。
しかしながら、アマちゃんの私とは違って、山あり谷ありの人生を負けずに明るく邁進してこられたウスタニさんには、 内に秘めたる強さがあります。ちょっとやそっとの力で押しても、ズンと動じない頑丈な精神力とあっけらかんさです。
大きく深い懐をもつ、パカーンと竹を割ったようなオトコマエなミホさんなのです。

こばやしゆうさんの個展を観に行こうと、鎌倉のギャラリーに連れて行ってくださいました。
ミホさんの愛車の“FIAT500”は1971年製でカタチがシンプルでチャーミング。
が、爆音をたてて走る。
鎌倉の観光通りをブロロロロ・・と走る。道行く人たちがこちらをみてくるのが、気恥ずかしいような誇らしいような・・・。
湘南の海岸線を走る。房総の海より少し洗練された空気の漂う湘南の海。
車のルーフをあけて浴びる夏の終わりの蒸し暑い潮風も爽快で、「わぁ。きもちいい!」と連呼したほどでした。



カメの中の藍をかき混ぜるウスタニさん
ウスタニさんの作品となる布はバラエティ豊かで、初めて聞くような素材も少なくない。
“ピーニャ”と呼ばれるパイナップルの葉脈の繊維から織られたシャリっとしたもの。
私の崇拝する、コムデギャルソンのデザイナー・川久保玲さんも、ウスタニさんのピーニャのストールをお持ちだとか。
また、表紙の撮影に使ったものは、“ムガシルク”。織りが特に細かく、軽くて温かくて肌にきもちのよいスグれもの。インド北部のムガ地方でしか採れない幻の布で、タッサーシルクのように毛羽立ったりせず、洗ってもゴールドの色が落ちないそうだ。
“カディ”という布は、その昔ガンジーが農民に農閑期の間、綿を紡いで織らせたというもので、シルクより高級。

ウスタニさんの染めは、藍によるものや墨によるものが多い。
今回出展される藍染の技法は、“縫いしめ絞り”。
これは、布にミシンを掛け、上糸と下糸で絞ったあと染色し、そのあと糸をほどくことによって、独特の景色に染め上がる。薄く繊細な布にミシン針のあととその周りに美しく染まった表情がみごとだ。

「私は空くらい海くらいの青が好きです。とてもはかないけどBlueはしっかり残るのです。」
このコメントは、ミホさんの“藍”の色へのこだわり。

ウスタニさんの作品には、クオリティの高さだけでなく、心憎い細工や、なんともいえない色彩、モダンな図柄、キュートな遊び心・・・。
なるほど、強く惹きつけられる要素が全て内包されている。
ストールをはじめ、座布団、バッグ、Tシャツ、巻きスカート、・・・・・など、たくさんのアイテムに息づきます。
オトナのオンナに似合う、さりげないかっこよさがたまりません♪




朋子さん・千春さんのアトリエ

可憐な母・萩原朋子さん


千葉県野田市、萩原千春さんと朋子さんご夫婦のアトリエには約4年ぶりの訪問。
ウチとは同じ千葉ですがとても遠く感じる。野田は千葉県と茨城県の境めあたりに位置します。
千春さんとは一年に一度くらいバッタリどこかでお会いしますが、好青年を絵に描いたような方です。
朋子さんは高校時代通っていた美大受験予備校で事務員の千春さんと初めて出会いました。その頃は話もしたことがなかったそう。
武蔵野美術大学生となった朋子さんの前に、なんとあの事務員・千春さんが助手として現れた。その頃は鬼教官(!)と恐れていた。卒業後、時々、大学時代のご友人や千春さんと呑む機会があり、ここでお二人のお付き合いが始まったそうです。
ある年、千春さんが、芸術家の卵たちが集まるパリのアトリエで学べるという選考に受かり、それを機に晴れてお二人は結婚してパリに。

パリでの新婚生活は、きっと私たちが憧れるようなものだったのでしょう。
パリ話でひとつおもしろいと思ったのが、街のいたるところでサーカスが興じられていたということ。
しかも老若男女が映画や遊園地に行くような感覚で、日常的に楽しんでいるというのです。
そのことがきっかけなのか、朋子さんの作品の多くには、ちょこんと控えめに動物のモチーフがついています。 朋子さんの作品にはそんなかわいらしい動物がついているのですが、決してアマすぎない表現が心地よい。
忘れかけていた(?)乙女心をくすぐられる作品には、各々にタイトルがついています。
たとえば、“長い夢”、“鏡の国”、“屋根の上にて”、“夕凪の丘”、・・・・・。
そのタイトルと作品だけで、ストーリーや情景が浮かんでくるようです。



ひとつぶだね・伸くん
萩原家には3歳になる伸くんというお子さんがいます。
見ようによっては高校生にも中学生にも見える可憐な朋子さんも一児の母。
日々、大切に地道に丁寧に子育てをしておられる姿は、ブログ等からもうかがえます。
伸くんが生まれる前と後では何か作陶に変化があったか尋ねてみました。
以前、朋子さんは、できた作品を見たときに○○だとわかる具象的なモノは作りたくないと思われていたそう。ところが、伸くんが「コレ、お舟だね。」とか「コレ、飛行機だね。」と言ってくれるような、たしかにそれとわかるカタチのものを作ることへの喜びを感じだした。
「そうだ。作りたいもの、自然に手が動いてできるものを作ればよいのだ。」と、朋子さんの意識が移っていったとのこと。ヒトって(いや、動物もそうなのかも)、親になって初めて感じる深ーい愛情や責任感や感謝の気持ち・・・・・。
この大きな気持ちの変化は、ヒトを一層大きく育てる気がします。
そして、怖いモノが減って、強くなり、自然体でいることが心身ともに気持ちがよいことを知る。
子どもは守られていることを肌身で感じ、その存在そのものだけで親を幸せにしてくれる。
朋子さんの作品は、それらの象徴のようにもみえてなりません。
そこにあるだけでふとホンワカ心が温かくなるような作品には、皆が楽しい気分になるサーカスのエッセンスと情愛がつまっているのです。


コラム vol.30 "オトコマエ・ウスタニミホさん" "可憐な母・萩原朋子さん"