ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.23 "平島毅さんのイラストレーション""こだわるオトコ・小野高峰さん"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.23 "平島毅さんのイラストレーション""こだわるオトコ・小野高峰さん"

平島毅さんのイラストレーション こだわるオトコ・小野高峰さん(ギャラリーテン〜コラム vol.23) <2009年6月号>

平島毅さんのイラストレーション



張った綿布(上)に、
ニードル(下)で引っ掻いて描く

ある日、ネットで遊んでいたところ、妙に惹きつけられる絵がありました。
最初はアクリル画かなぁと思ったのですが、よく調べるとロウケツ染めによる絵でした。
キュートでシュールな動物やヒトがモチーフになっているそれらの作品は平島毅さんによるものでした。

平島さんはフランクで誠実、そして熱い人です。
話しているうちに平島さんのお顔が上気してきて、想像力がぐんぐんふくらんでいっている様子がみてとれます。
平島さんの仕事は、あくまでイラストレーション。

彼は多摩美大と東京芸大で染色を専攻。
彼の絵を最大限に活かす手段が、油彩でも水彩でも版画でもないロウケツ染めにいきついたとのこと。
布に描くということで、紙とは異なるテクスチャー、画材の定着や発色の仕方に魅力を感じるというのです。
ひとつの絵になるまでの過程は気が遠くなるほど。
まずは布全体にロウでマスクし、先を削って丸めたニードルなどで引っ掻いてロウを削り、削った部分を染め上げる。
削る行為は紙にペンで描く感触にとても近くて、線を扱いやすいのだそう。
布の精錬→地入れ→下図書きを経て、1色染める毎に“防染→彩色→定着→脱ロウ→色止め材塗布”を繰り返す。
ニードルの筆圧が強すぎると布を裂いたり、脱色時の具合によってもイチからやり直すことになったりと、プレッシャーの下での作業。

“ロウケツ染め”と聞くと、東南アジアのバティックが頭に浮かび、地味で渋いという印象をもっていました。
平島さんの作品は、ヴィヴィッドだったりパステルだったりのカラフルな染めで、ちょっとした感動を覚えました。
“友禅染め”では、糊を含ませた筆で輪郭を描き、線で囲まれたところに染料を塗りこみ、糊の線が染料をはじいて絵柄ができる。

“ロウケツ染め”も、要領は似ているのですが、平島さんの染めは手数が掛かりすぎる。
「友禅染めの手法で創作する方が楽な気がするけれど、どうしてロウケツ染めなの?」と素朴な質問を投げかけてみました。
「ロウケツ染めだからこその表情がおもしろいから。」というお答。
予想のつかない意外な色のハプニングが期待できるらしい。
そして、平島さんのイラストレーターというアイデンティティが、このロウケツ染めによって結実するのです。

昨年、息子さんが誕生し、子どものみなぎるパワーによって創作意欲が増し、新たな世界を模索中と意気揚々。
毎日慌しい充実した熱い一日を楽しそうに過ごされているように感じました。

今回、初挑戦の風呂敷や手ぬぐいをはじめ、壁を彩るパネルなど、平島ワールドが炸裂します。お楽しみに♪

小野高峰さん

ウチの近所にいた小野高峰さんとひょんなことから友人になりました。
彼は、古民家の移築や骨董や古道具に携わっていて、いつも興味深い話をしてくれます。
モノや暮らしに対して、ゆるぎない強いこだわりと信念を持っていて、それらを空気のごとくあたりまえに淡々と実行しているところにいつも感心させられます。
小野さんは、元々は建築を志しハウスメーカーに勤めていましたが、あるとき、奥飛騨の福地温泉で泊まった旅館の空間のすばらしさに衝撃を受けました。
このことがきっかけで、古民家の移築の仕事をするようになり、また同時に骨董や古道具にのめりこむことにもなりました。


小野さんが手がけたお宅
「高峰」というファーストネームは「たかね」と読みます。
地質学者で登山家のお父さまが名づけられたとのこと。なるほどとうなずけるよい名前だ。
長身でガタイがよい元プロレスラーの高田延彦さん似の小野さんは、健康そのもので、とにかくフットワークが軽いしよく歩く。
しばしば、早朝に車で出発したり電車の始発に乗ったりして、建築現場や古物の競りに向かう。
朝イチからバリバリ仕事をし、合間をぬって、ギャラリーやカフェに立ち寄ったり、千葉ロッテマリーンズの観戦もかかしません。
彼の起きている間の時間がフル活用され、密度の濃い一日を過ごしているのには頭が下がる想いがします。
足を動かし、より多くのモノに触れ、実感することを惜しまないのです。

この春、小野家に赤ちゃんが誕生しました。
生まれてくる赤ちゃんのために、あらゆる手仕事の作品をうれしそうに買い集める小野さんには生気がみなぎっていました。

千葉さんの吊るし雛
例えば、糸を紡ぐところから染め・織りまで成されたオクルミ。
古くから伝わる芝原人形作家の千葉惣次さん・真理子さんのつるし雛や七段飾りのお雛さまや犬箱や招き猫や・・・・・。
昭和初期に使われていた籐のゆりかご。
漆作家の高田晴之さんの、口縁が分厚く丸くなった子ども椀。
毛糸紡ぎから編まれた帽子や靴下。
このほかにもまだまだ挙げたらキリがないほどこだわりの赤ちゃんグッズが勢ぞろいです。
食にもうるさい小野さんだから、この子がどんなふうに成長していくのか私は間近で見守っていくのが楽しみになりました。
毎日のホンモノに触れる暮らしを常識とすることが、必ずやすばらしい人間形成につながると実証してくれるでしょう。

時々ごはんを一緒に食べたりすることがあり、以前、お盆が好きでたくさん集めていると聞いたことを思い出しました。
今回、ムリを言って、大変な想いをして集めたお盆を gallery tenで企画展としてやらせてもらえることになりました。
小野さんの好みは木味(キアジ)のよい木地の盆。
なんといっても今では絶対とれない“木”との出会いがエキサイティング。
それらの木地モノに加えて、漆、蒔絵、鉄、銅、アルミ、竹など、江戸時代から昭和初期の古いお盆がバリエーション豊かに登場。
非売品もありますが、時代の重みをたずさえた道具として、ぜひ暮らしの一部に取り入れていただきたいものばかりです。
器を持ち運んだり、お膳として使ったり、花器を載せたり、・・・・・と、いろいろな用途でもっともっと使い込みアジを楽しんでみませんか

コラム vol.23 "平島毅さんのイラストレーション" "こだわるオトコ・小野高峰さん"