ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.17 "平成維新by青木良太""へうげもの"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.17 "平成維新by青木良太""へうげもの"

平成維新 by 青木良太 へうげもの(ギャラリーテン〜コラム vol.17) <2008年6月号>

平成維新 by 青木良太

↓トレードマークのターバン


多治見駅から青木良太さんのアトリエのある土岐まで車で送っていただきました。
瀬戸とも違う、常滑とも違う、信楽とも違う、美濃独特のやきものの町の風景。
町のエリアによって、とっくりばかり作るところ、急須ばかり作るところ、・・・・・、各場所に各アイテムの職人さん方がおられるらしい。

青木さんのアトリエは、戦前からあった馬小屋を改装したとのこと。
パラパラと土壁が落ちてくるというので、天井や壁に粘土が入っていた袋が規則正しく貼り付けられている。
最初は施工された断熱材がむき出しになっているのかと思ったほど、美しく内包されていました。

彼は大学時代、ミシンを買って自分で大好きな洋服を縫って、売れるほどになっていたそうです。
そのうち、興味はアクセサリー制作へと移行し、そして、なんとなく陶芸教室に行ってみたら「コレだ!」という確信が。
ちゃんと学ぶため、多治見意匠研究所に通い、卒業後あっという間に脚光を浴びる存在となりました。

「たまに嫌になったりしませんか?」と尋ねると「それは全くないです。おもしろくて仕方がないんですよ。」という潔い回答。
土をさわっているうちに、次から次へとアイデアや何かしら新しいものが沸いて出てくるというのです。
また、「土がカタチを教えてくれる」という奥深い言葉が青木さんの口から出ました。

ろくろをひいているところを見せていただきました。
カメラのシャッターを何度かきったら、え、もうできあがり?
す〜っと指先が粘土に吸い付いているかのようななんともなめらかですばやい動き。
あっという間に、粘土の塊が洗練された造形に早変わりするのは、まさにイルージョンです。

アトリエには調剤薬局の棚のように、いろんな成分の粉が入った透明のケースが整然とならんでいます。
おもしろい釉薬を作るのに、あらゆる配合を試し、テストピースを焼く。
昨年一年間で2500種類のテストをされたというのを聞くと、ただならぬ情熱を感じずにはいられません。

壁に貼ってあった3年分のスケジュールを見て驚愕しました。
すさまじい頻度で国内外での展覧会の予定が書き込まれている。
それらのものづくりをするのに、相当カラダを酷使しているようで、点滴を打つこともあるとか。

電気窯が毎日稼動していると聞いて、下世話ながらも電気代がかさむんだろうな〜と思いました。
それにしてもゲンキがみなぎっている青木さんの眼力はビーーーっと突き刺さるように発されている。
初めて青木さんにお会いした日、私の弟にソックリなのにびっくりして以来、他人のような気がしないでいます。
つい先日、30歳になったばかりのお若い青木さん。
30代のコンセプトは“平成維新”ですって。
陶芸界にアバンギャルドな新風をふきこんでくれること、期待大です。






へうげもの

織田信長、豊臣秀吉の戦国の時代、千利休の茶の湯に傾倒した武将・古田織部。
彼が好んだ奇抜で前衛的な作風の一種でもある深い緑色の織部焼きといえば誰でも知っている、あの織部です。
その古田織部が主人公の『へうげもの』というコミックが刊行されているのをご存知ですか。

歴史にほとんど興味のなかった私はどんどんそのストーリーの魅力に引き込まれていってしまいました。
登場人物全てが日本の歴史を大きく動かした人ばかりで、しかも“茶”を切り口に展開していくのがおもしろい。
ちょっと人間臭くデフォルメされた描写が親しみを倍増させる。

このコミックの元となって連載されている『週刊モーニング』の読者層は結構若いそうだ。
そんな若い層の人たちに支持されるのが茶の湯の話というのが興味深く、意外でもある。

さて、この“へうげもの(ひょうげもの)”とは、今でいうひょうきん者とか変わり者という意味のようです。
強い嗜好やこだわりを貫いて斬新に邁進する人、つまり“数寄”者ともいえるのでしょう。
古田織部を“へうげもの”あるいは“数寄者”の代表とするなら、それから時代を経て今を生きる青木良太さんにも同じことが言えるかも。 
ここ数年、青木さんは茶陶にも積極的に取り組み、スタイリッシュで繊細な独創性を帯びた作品をつくりだしています。

青木さんの作陶する美濃は、織部のふるさとでもあります。
変化しながら脈々と受け継がれていく織部のスピリットの空気を、知らず知らずのうちに青木さんが感じ取っているのかもしれません。

影響されやすい私は、最近、お茶のお稽古に通いだしました。
正座ができなくて苦労こそしていますが、毎回のお稽古のあらゆる場面にインスパイアされることがとても大きいのです。
もっともっとお茶の世界をのぞいてみたい。
茶室では、ただお点前をするだけでなく、その空間にある花から掛け軸から道具から室礼から阿吽の呼吸から、・・・・・、
奥深いトータルバランスによって究極の宇宙が成立するところが尊い。
一瞬一瞬のインスタレーションがそこに存在し続け、刻々とボルテージがあがっていきます。
以前は堅苦しくて形式ばった茶道なんて面倒だとまで思っていた自分はいったいどこにいったのでしょう。
どの所作にも理にかなった美しい流れを成すプロセスがあるということがわかりかけてくると、
小汚い格好をした人でもさりげなくさらりと身のこなしを見せた瞬間、輝く後光が差すほどステキに見えるのではと思い始めてきました。
なにより“もてなす”という心を授ける人も受ける人も、誠実な品格を備えたときに通じ合うことができると実感します。
立派な大人の女性になるための課題がまた増えてしまいました。精進、精進!

コラム vol.17 "平成維新 by 青木良太" "へうげもの"