ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.16 "高木浩二さんの器""岡田直人さんの器"

ギャラリーテン/gallery ten〜コラム vol.16 "高木浩二さんの器""岡田直人さんの器"

高木浩二さんの器 岡田直人さんの器(ギャラリーテン〜コラム vol.16) <2008年4月号>
  高木浩二さんの器

高木さんのプロフィールは興味深い。
慶応大学文学部哲学科で美学を専攻されました。哲学科の中にそういう分野があることを初めて知りました。
高校生の頃から京都や奈良がお好きでよく訪ねておられ、当時、路上でやきものを売っておられた方に惹きつけられたのだそう。
その方こそが、今や大御所ですばらしい作品を世に出されている辻村史朗さん。
以降、辻村さんとの交流が始まり、大学在学中に、アカデミックな芸術論よりは作り手になりたいという気持ちの変化が。
そして、大学卒業後、どこにも就職をせず、しかも弟子をとらないという奈良にある辻村さんのお宅に居候。
陶芸の基本はそこで習われました。
その後、京都の古川章蔵さんに師事。
古川さんは自由な造形の白磁に自由な絵付けが独創的な作風で知られる方です。
高木さんが独立されてしばらくは、その古川さんの独特の作風によるいわば呪縛のようなものから解き放たれるのが大変だったとのこと。

現在、いろんなことに挑戦しながら作陶されていますが、なんといっても高木さんの彩泥の作品に魅力を感じます。
古代の大理石のような、恐竜の卵のような、なんともいいがたい地肌が美しい。
薄く鋭く挽かれた黒土の素地に、泥状の淡い色の土をスポンジに含ませ、パッティングを重ねる。
造形がとても洗練されてモダンなのに、不思議な古めかしい印象を受けるのです。

驚くほど、どんな食材をも受け入れる包容力がある。そして丈夫である。
これは高木さんご本人にもそっくり当てはまります。
常に冷静で温かくふんわりしたお声でトツトツと話されます。
にっこり笑っておられるわけではないのに、“にっこり”という余韻が残るヒト。
ぬるま湯の中に浸かっているような気持ちにさせてくださるヒトです。

いつ何時も前を向いてゆっくり一歩一歩確実に進んでいる高木さんの器が、これからどんな変化を遂げるのか楽しみです。
ただそこにはずっと高木さんのスピリットが息づいているのでしょう。



 

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  岡田直人さんの器

昨年夏、石川県小松市の岡田直人さんのアトリエを訪ねました。
お宅のリビングは、とてもシンプルで、ただ薪ストーブがすっくと立っている。
窓からは緑の木々が見え、「しーん」という音まで聞こえてきそうな静けさでした。

岡田さんは温暖な愛媛のご出身ですが、北陸の雪が大好きだそう。
今でも雪が降るとワクワクするのですって。
なにかものづくりをする人になりたいと、京都でデザインを学ばれました。
何をつくるのかという選択肢をいろいろ考えていったところ、陶芸にいきついたとのこと。
その後、瀬戸の窯業校に学び、石川県に移り、九谷青窯でろくろや絵付けの仕事を数年。
そのうち、おもしろい土に出会い、独立。

岡田さんの作陶に至る意識的プロセスがおもしろいと思いました。
まずは、惚れこんだ土と惚れこんだ釉薬に出会うこと。
その素地と釉に合うのはどういう造形が一番よいのかと考え、創作されるのです。
繊細な半陶半磁の土を練り、ろくろでシャープに挽く。
オランダのデルフトのやきもののようなトロっとした乳白色の肌。
これは、透明釉に錫を混ぜて施すことによって得られるそう。
そして、緊張感と優しさが共存するキレイな器ができあがる。

好青年を絵にかいたような岡田さん。
お話をしていても、真摯で誠実な内面が伺えます。
また、何より、ものづくりに真正面から向き合い、渾身こめて真面目に(!)創作し、ストイックに自らの作品を評価する。
以前は、作ったものの半分を納得できなくて破棄してしまうこともあったなんて・・・。
「どんなところが気に入らなかったのですか?」と尋ねると、
「う〜ん、微妙なところなんですが、何かが違うと思うと許せない。でも、昔のを見ると、改めてよさを発見することもあるんですよね。」と。
作陶を始められた頃は、突拍子のない斬新なものも作られたそうですが、今は、いかに料理や食材を活かす器が作られるかということを意識しておられるとおっしゃいます。
岡田さんといろいろ話をしていると、単純にステキだなぁと思っていた作品から彼のハートの熱さが手にジリジリと伝わってくる気がします。
ジリジリ体験してみませんか。

コラム vol.16 "高木浩二さんの器" "岡田直人さんの器"